深刻な視力障害の原因になる網膜剥離
網膜剥離」とは、眼球内で映像を映し出す「フィルム」の役割をはたしている網膜がはがいちじるれて、視力の著しい低下や失明を引き起こす病気です。
けがや糖尿病などが原因で起こる場合もありますが、いちばん多いのは老化によって網膜にまず「網膜裂孔」という裂け目ができ、そこからはがれていくというタイプです。
このタイプを専門的には「裂孔原性網膜剥離」といいます。病気のはじまりとなる網膜の裂け目は、網膜が硝子体に引っばられるためにできてしまいます。
網膜は外側で脈絡膜と接する「網膜色素上皮」と9層の「神経網膜」からなる薄い膜で、硝子体を包み込んでいます。
一方の硝子体は、薄い「硝子体膜」に包まれ、水分を多く含んだゼリー状の組織で、老化しはじめると眼球の前方に向かって縮んでいくという特徴をもっています。老化にともない、この変化が始まるとき、接している硝子体膜と網膜が癒着していると、網膜がいっしょに引っばられ、かぎ裂状に穴があいてしまうのです。
こうしていちど網膜裂孔ができると、硝子体の水分が網膜の裏側に入り込んで、はがれをどんどん押し広げるようになります。これが「網膜剥離」の状態です。この状態になると、視界にはどのような変化があらわれるのでしょうか。
網膜剥離の自覚症状と進み方
なんらかの原因で網膜に裂け目ができてしまうと、視野に黒い虫のような影がちらつく「飛蚊症」があらわれます。これはほかの目の病気でもみられる症状ですが、網膜剥離が原因である場合、はっきりと黒かったり、塁を流したような影が〝ある日突然「、野にあらわれ、ちらつき始めるという特徴があります。
この状態を放置していると、網膜がはがれていくのにともない、視野が隅のほうから欠け、しだいに見えない範囲が広がる「視野欠損」が起こります。困ったことに視野が欠けてくると、ちらつく影がしだいに少なくなり、飛蚊症が治ったかのように勘違いすることもありますので気をつけてください。
また、暗いところや目を閉じた状態で、視野の隅に光が走る「光視症」は網膜と硝子体膜に癒着があると起こるため、網膜裂孔の前段階といえます。もしこれらの症状に気づいたら、一度、眼科で網膜の状態をチェックしてもらいましょう。
もし、網膜裂孔が発見されたら早い段階で治療を行わないと、やがて網膜がはがれ落ち、重い視力障害や失明につながります。視力の低下は、初めのうちはあまり目立ちませんが、ものを見るのに重要なはたらきをする網膜の中心部「黄斑部」がはがれると急激に悪くなるのです。
視力を失うという最悪の事態を防ぐためには、網膜の裂け目やはがれを一刻も早く発見し、治療に人らなくてはなりません。そのためには視野の異常に少しでも早く気づくことが大切です。
網膜剥離に注意しなければいけない人
- 白内障の手術をしている白内障の手術を受けことのある人は、硝子体に網膜剥離を促すような変化が起きやすくなるので注意が必要
- 重症のアトピー性皮膚炎最近、増えているのが、重症のアト性皮膚炎患者にこる網膜剥離。特に10~30代の若い層に多発しているが、アトピー性皮膚炎と網膜剥離のはっきりとした因果関係は、まだわかっいない。このタイプの網膜剥離は再発率が高く継続した治療が必須。
- 40代以上網膜剥離は硝子体の化がひとつの大きな要因になる。この病気のピークが40~60歳のはたらき盛りということからも、40歳を過ぎたら、目の定期検査を受け、日ごろから目の健康管に努めること。中高年に起こる網膜剥離では、「光視症」が大きなシグナルになる
- 強度の近視の人目の老化がそれほど進んでいない20~30代の人に起こる網膜剥離は強度の近視が原因となっている場合が多い。これは強度の近視の場合眼球の奥行きが大きく、その分網膜が引き伸ばされて破れやすい状態になっているためli>
検査・治療
では網膜剥離を治療するためには、どのような検査・治療が行われるのでしょうか。飛蚊症に気づいて病院にいくと、まず網膜に裂け目があるかどうかを調べるために「眼底検査」を行います。
ほとんどの網膜裂孔や剥離は、この検査で発見することができます。もし網膜に裂け目や裂ける寸前の状態が確認されたら、剥離を引き起こさないように裂け目をひかりぎ⊥うこ閉じる「光凝固」治療を行うことになります。
これは裂け目にレーザーをあて、焼きつけて閉じる方法です。ただし、裂け目が黄斑部にできている場合、この治療はできません。裂け目を閉じるには光凝固のほかにも冷凍装置を使う方法(冷凍凝固) や高周波電流を流した針を使って焼きつける方法(ジアテルミー凝固)などもあります。
またすでに網膜がはがれはじめているようなら、眼球の外にシリコンを縫いつけて外側から網膜を押しっけるという手術(強膜バックリング)を行います。
重症の場合には、網膜とそれを引っばっている硝子体を切り離したのち、硝子体にガスを注入して膨らませ、はがれた網膜を周囲の組織に押しっけて元に戻す方法もあります(硝子体切除術)。現在では網膜剥離の治療技術も進み、剥離が始まっていても1 回の手術でほぼ完治させられるようになっていますが、それでも1割程度には再発する可能性があります。
また、片目が網膜裂孔や剥離を起こした場合には、やがてもう片方の目にも症状が出る可能性が高いので、治療後も年に1、2度定期的な検査を行うようにしてください。