寝不足で注意力は「ヘペれけのひと」並に
睡眠不足がお酒に酔うのと同じくらいパフォーマンスを低下させることを示したのが、1997年にサウス・オーストラリア大学のグループが「ネイチャー」誌に発表した有名な論文です。
40人の被験者を対象に、コンピューター画面で目標を追うテストで睡眠時間と作業効率の関係を調べました。結果は明らかで、17時間連続して起きているだけでアルコール血中濃度0.05% に当たるパフォーマンスの低下が見られたのです。
さらにひと晩寝ずに24時間起き続けていると、実にアルコール血中濃度0.98% 以上と同じくらいパフォーマンスが低下してしまいます。
ちなみに、アルコール血中濃度0.05%以上で、酩酊状態になってしまいます。寝不足のひとと酔っ払いは同じくらいミスをする可能性が高い、といわれるとドキッとしませんか?
記憶力と睡眠時間の関係は?
また、睡眠不足だと、記憶力も低下してしまいます。記憶に関して、寝不足の脳の中身はどうなっているのでしょうか?ひと晩寝させない断眠、睡眠奪取によるワーキングメモリの機能低下については、記憶についての有名な報告をど紹介しましよう。
ハーバード大学のユー・スンシク博士らのグループが2007年の「ネイチャー・ニューロサイエンス」誌に発表した論文です。
眠らないと新しいことを覚えられない
研究の内容を簡単に紹介します。28人の学生に実験に参加してもらいました。参加者は2つのグループに分けられます。ひと晩徹夜する「断眠群」と、ちゃんと眠れる「睡眠群」。
2つのグループの学生さんは、徹夜後ないしはちゃんと睡眠したあとに、それぞれたくさんの写真のスライドをコンピューター画面で見て、覚えてもらいました。参加者に写真を見せているあいだに、機能的MRIを用いて、彼らの脳の活動を観察しました。そして2日後に、2つのグループがともに睡眠をとったあとに、、どれだけ覚えているかのチェックテストを行いました。
予想どおり、断眠したグループでは睡眠群より、テストの成績が悪くなりました。徹夜してものを覚えるのは、やはり効率が悪いわけです。しかも興味深いのは、機能的MRIの結果です。
断眠したグループは、記憶を司る脳の海馬の活動レベルが、非常に低くなっていたのです。
寝不足は、自分の脳の海馬に大きなダメージを与えているわけです。この実験ではひと晩の徹夜だけで、しかも写真を記憶するという機能に絞りました。これが慢性の睡眠不足だと脳にどういう影響を与えるのか、また記憶力以外の認知機能へのダメージは? これはまだわかっていません。
実験参加者のハーバードやMITといった名門校の学生ボランティアが、実験をはじめる前は理知的で質そうな青年だったのに断眠後は異様にハイになったり、イライラと怒りっぽくなったりするのを目の当たりにしました。
みなさんも、くれぐれも思わぬ人格変容や失態を演じることのないよう、睡眠管理で自分をコントロールしてください。