質のいい睡眠のための条件 > 2018年 > 1月

一夜漬け問題、本当に効果があるの?一夜漬けの疑問を解消

一夜漬けvsしっかり睡眠

寝てしまったら、覚えたことはどうなる?

一夜漬けで試験を乗り切ってたという人も多いはずです。勉強によっては

  • 暗記することが多過ぎる
  • 直前まで勉強する気が起こらない
  • 締め切り効果で集中力が逆に出る

などいろいろ言い訳がよぎります。

しかし、「寝てしまうとせっかく暗記したことを忘れちゃうのでは?」という不安があったのも事実です。

さて試験を控えて、寝ずに暗記作業を続けて試験に臨んだほうがいいのか、ちゃんと睡眠をとって臨んだほうがいいのか。これはある意味、学生の永遠のテーマですが、想像のとおり、36時間ぶっ続けで起きていたあとに記憶テストをして、記憶力が低下していた、こういう研究結果は多いのです。

しかし一睡もしなければ集中力が低下して、記憶力が落ちるのは考えてみれば当たり前ですよね。

では、いろいろ覚えて学んだあとに睡眠をとると、頭に残るのか逆に忘れてしまうのか?。これは正直、知りたいところでしょう。

ヒントになる面白い研究があります。記憶の「干渉効果」と睡眠とを調べた研究です。神経内科医のジェフリー・エレンボーゲン博士が「カレント・バイオロジー」誌に発表した論文をひもとく前に、記憶の干渉効果についてふれておきましょう。

干渉効果とは、記憶した内容がほかの記憶した内容を邪魔してしまうために記憶成績が低下するという現象です。睡眠はこの「干渉効果」から記憶を保護してくれるというのが、エレンボーゲン博士の研究報告なのです。

記憶は睡眠によって保護される

エレンボーゲン博士らは、18〜30歳の健康な男女48人に、20ペアの関係のを記憶してもらい、12時間後にべアをどれだけ覚えていられるかを調べました。

そして、この48人を次の2 グループに分けました。

1グループ目は、「覚醒グループ」です。朝9時に記憶したあと、ずっと起きたままでいて夜9時にテストを受けてもらいました。

2グループ目は、「睡眠グループ」。夜9時に記憶したあと眠ってもらって、朝9時にテストをしました。さらにそれぞれのグループの半数のひとには20ペアの単語を覚えたあとに、別の20ペアの単語を見せて、記憶を妨害してみました。

その結果、妨害のない場合で、睡眠グループの成績のはうが覚醒グループより12%だけ好成績だったのですが、びっくりするのは、覚えた記憶にちょっかいを出して妨害した場合です。

妨害(干渉)した場合では、睡眠グループの成練は覚醒グループをなんと4%も上回りました。

エレンボーゲン博士は睡眠が干渉効果から記憶を「保護」する作用を持ち、深い徐波睡眠が海馬の機能と関係しているのではないかと考察しています。

徹夜で起き続けて暗記を続けるのもいいのですが、覚えたことが次に覚えることの邪魔になる…残念ながらこれが結果です。ひととおり学習を進めたら、ちゃんと睡眠をとって覚えたことを保護してあげるのが、得策のようです。

脳がオーバーヒートしないための眠り方

脳のオーバーヒートを防ぐ

脳のクールダウンは大事

「ホメオスタシス」という言葉、学校の保健体育の授業で耳にしたことはないでしょうか?「ホメオスタシス」とは「恒常性」とも訳されます。

「ホメオスタシス」は生物の持つ重要な性質のひとつで、内外の環境変化にかかわらず、生体の状態が一定に保たれるという機能または状態を指します。
わかりやすい例は、体温です。人間の体温は約36度ですが、暑いところでは汗をかいて体温を下げようとしますし、寒いところでは震えなどで体温を上げようとします。

なるべく一定に保とう、と頑張るのが、ホメオスタシスの機能です。したがって恒常性を保つには、生じた変化を元に戻して打ち消そうとする作用が必要です。この打ち消し作用のことを、フィードバックともいいます。

同じようなホメオスタシスが、覚醒・睡眠の学習にもあるというのが、近年では世界的に注目されている仮説です。アメリカ・ウィスコンシン大学のジュリオ・トノーニ教授が、この説の提唱者です。

彼の主張の内容はなかなか難しいのですが、こう解釈しています。まず、シナプスを連想してみてください。シナプスとは、神経細胞同士の隙間のことです。この隙間を通して、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質がやりとりされます。

人間の脳機能は、このシナプスの活動によってすべてが行われています。人間は学習すると、シナプスの活動が活発になります。勉強すれば海馬や前頭葉の活動の、スポーツをすれば運動を司る運動野という部分の、それぞれのシナプスが活性化されます。

活発になったままでは、オーバーヒートしてしまいます。そこで先はど述べた「フィードバック」が必要なのです。いわばクールダウンですね。このクールダウンが、深いノンレム睡眠、すなわち徐波睡眠なのです。

徐波睡眠とは何度かど説明したように深い睡眠のことで、脳波では2〜3ヘルツのデルタ波と呼ばれる遅い脳波が多量に出現しています。

この遅い脳波、すなわち徐波が、シナプスを恒常的に維持するためのエネルギーバランスを保つ現象だというのです。

どうでもいいことは忘れ、重要なことを頭にインプットする

この徐波睡眠のあいだに、シナプス間の強度がある一定のレベルに達しないものは排除され、逆に強度の強いものは強化されます。

どうでもいいことは忘れられ、重要なことは頭に入る、平たくいうとこういうことだと思います。入力された情報を整理し不要なシナプスを取り除くことで、睡眠をとったあとの記憶定着率が上がります。

また、翌日学習するための新たなスペースを作り出す、というメリットも出てきます。

大雑把な話でしたが、これで人間の記憶定着にノンレム徐波睡眠がいかに重要かが、おわかりいただけたと思います。

人間のホメオスタシスは、起きているときだけに機能しているわけではありません。睡眠はそれ自体が、重要なクールダウンともいえるわけです。繰り返しになりますが、「よく学び、よく休む(眠る)」ことが勉強や学習にはたいへん重要だということです。

一夜漬け問題、本当に効果があるの?一夜漬けの疑問を解消

よく考えているときには「シータ波」が出ている?

考えているときはシータ波がでている

海馬シータ波と記憶の関係

「アルファ波」や「ベータ波」という言葉を聞いたことがあると思います。人間の脳波に見られる、波形のタイプのことです。

この波形の周波数の違いによって、アルファやベータなどの名前が付きます。

たとえば1秒間に8回波の山があると、8ヘルツとなります。
起きているひとの後頭部に通常見られるアルファ波は、8〜13ヘルツです。ここで説明するシータ波というのは、アルファ波よりちょっと遅い4〜8ヘルツの波です。

ひとつの山だけでなくいくつか連続して出現するのが特徴で、シータ律動(シータ・オシレーション)ともいいます。

シータ波と学習についての研究は、動物実験からはじまりました。ちょっと痛々しいのですが、ネコやラットなど動物の脳、主に海馬に針のような電極を刺して、活動中の脳波を観察するのです。

1950年代の研究で、学習や記憶に海馬のシータ波が関係しているのではないかという報告が相次ぎました。またこの海馬シータ波が、海馬の歯状回というところで行われるシナプスの長期増強という現象と関係があるのではないかという仮説が立てられました。

シナプスの長期増強とは、高い頻度で刺激するはど、シナプス伝導が長期にわたって強く持続するようになるという現象です。単純にいえば、よく練習するはどよく覚えられる、というところでしょうか。

高度な課題中は大脳にシータ波が出ている

「動物ではシータ波はあるらしいけど、人間ではどうなの?」と思われたかたも多いと思います。人間でも計算などの作業中に脳波を記録すると、大脳の正中部にシータ波が出ることが知られています。

ただ、頭の表面に装着する通常の脳波計では、大脳皮質の活動はわかっても、脳の深いところにある部位の活動を観察するのは至難の業です。

実際に脳の奥にある海馬がどういう脳波を出しているかは、海馬に電極を直接付けないとわかりません。そんなことができるのでしょうか?

正常なひとでは不可能ですが、てんかんの患者さんの協力を得れば可能です。てんかんとは脳のある部分が異常な電気を発してしまい、けいれんや手足が勝手に動くなどの症状が出る病気です。

これまでのてんかんの治療は、抗てんかん薬による治療が主流でしたが、最近ではてんかんの焦点を手術で取り払ったりする外科治療が注目されるようになってきています。

手術の際にてんかんの焦点を計測するために、脳表面に直接電極を留置します。こうすることで、頭蓋内脳波と呼ばれる脳波が測定できます。一般の脳波は頭蓋骨や頭皮の影響を受けますが、この頭蓋内脳波は脳細胞から直接信号をキャッチすることができます。

頭蓋内脳波を留置した患者さんに、パソコンでのバーチャルナビをしてもらい、難しい迷路での進路を考えているときほどシータ波が出現していることを、「ネイチャー」誌に発表しています。

ラットの実験で前頭葉の前部帯状回という場所にも、海馬シータ波と同期している神経細胞があることを発見しました。

まだまだ謎が多い

シータ波は、特に人間ではまだまだわからないことが多い脳波活動です。海馬だけでなく前頭葉にも、それに起きている間だけでなく睡眠中にも、あることがわかってきました。

機能的MRIや遺伝子の研究が全盛の時代ですが、人間の睡眠中の脳の活動を調べるには、やはり脳波計がいちぼん役に立つ検査器具です。